36.「新陳代謝」

吸って吐いて
吸って吐いて
吸って吐いて
吸って吐いて……
……
……
吸って吐いて
吸って吐いて……

取り入れて出して取り入れて出して取り入れて出して……生き物はいつも取り入れて出して取り入れて出して……勢いやリズムが変わるとしんどくなったりトリップしたり、たとえばこんな風……吸って吐いて吸って、吐いて、吸って吐いて吸って、吐いて、吸って、吐いて……吸って吸って吐いて、吸って吸って吸って、吐いて吐いて吐いて吐いて……


最近娘がよく歌っているのが「男女」という曲で、「男女男男女男女……」なんてよくやっている。これと似ているのが呼吸で、もともと陸上部だった私は、体が勝手に往年のペースで走りだすので怖くてもう走れないが、ジョギングやサーキットトレーニングなどをやると、こんな風な呼吸のリズムになってトリップしたり苦しくなったりする。

新陳代謝とはよく言ったもので、新しいものと古い(陳旧)ものが入れ代わってホッとする(弓を射た後の弛緩を言葉にする)という意味だそうだ。淮南子(えなんじ)(注1)に由来する言葉とされているが、例によってウィキペディアの記述に拠っていて自分で確認していないので、偉そうなことは書かない。

こんな風なことを思いついたのは、最近全然エッセイを書けない自分に苛立っていたからで、なんでだろう、なんでだろう……と悩んでいて、思い至った。要するにいろんなものに捕らわれていて、自由に表現するという楽しみを見失っていたからだ。いやもっと言うと、表現したい自分に自信を失っていたからだ。「心躍りしない文章は書かない方がいいよ」とは中井久夫先生の格言だが、それにも縛られていた。吐くだけでは無理、吸わなきゃだめ。吸って吐いて吸って吐いて……生き物はすべて新陳代謝しなきゃ生命維持できないのだ。

ここ最近、クラシックやジャズのコンサートに行くようになった。長らく読めなかった小説もぼちぼち読むようになった。ボートの免許を取ったり、論文らしきものも書くようになった。手品の練習も再開した。表現手段として書くことしかない僕は、フリージャズよろしく、自分のリズムと音階、音質で、呼吸するように書いてみよう……と思ったら、一気に書けた。

そろそろ息が吐けそうだ。

注1
淮南子:漢の武帝の頃に、淮南の地を治めた淮南王のもとに多くの食客が集まり、老荘思想を中心にさまざまな学問や哲学を説いたという。それらを集大成したのが淮南子とされる。