6.愛無OK?

愛されない、
あの人に、愛されない、
親にも、愛されない、
友達にも、愛されない、
動物にも、愛されない、
生き物全部に、愛されない、
自分の部屋にも、愛されない、
取り巻く空気に、愛されない、
今の時代に、愛されない、
渡る世間に、愛されない、
世界中に、愛されない、
宇宙全体に、愛されない、

自分自身に、愛されない……


「死にたい、生きるのが苦しい、息をするのも苦しい……」と訴え続けるクライエントに、例によって「息がつける瞬間はないの? 楽しいと思える一瞬はないの?」と訊いたら、珍しく彼女はしばらく口を閉ざした挙句、「ちょっと考えてみる」と答えた。いつもは即座に「ない!」と言い切っていたのに……。

自分嫌いの人に数多く出会う。少なくとも、相談に来る人に、自分が好きな人はいない。だからみんな、吐いたり切ったりして、自分のことをぞんざいに扱う。以前は、「せめてあなたぐらいは、あなたのこと大事にしてあげようよ」と言っていたのだが、どうもこれはアメリカばりのI'm OK!の直訳に過ぎない気がして、その安直さに内心忸怩(じくじ)たる思いがあった。そうこうするうち、まるでこの世の快楽なぞ一片たりとも感じたことがない……と言い張っていた頑固な彼女が、上記のような変化を見せた。それは、好きだといってくれる他人(ひと)が現れた直後だった。

自分で自分を愛せなくても、愛する人が自分を愛してくれさえすれば、ハイダーのバランス理論(※注)は成立する。私が愛するあの人が愛してくれる私なら、私は自分を愛することができるかも……といった具合に。かくして僕は、自分で自分のことを大切にしようなどと、ナルシシズムの勧めのような淋しいおためごかしはやめて、ただただわが身、わが人生のくだらなさを愚痴るクライエントの話に耳を傾けながら、彼や彼女を好きだといってくれる人の出現をひたすら待ち続けるようになった。

「世の中、捨てたもんじゃないかもよ……。」I'm OKに代わる、これが近頃の私のグランセオリーです。

社会心理学の用語。A、B、Cの三者間において、好悪をそれぞれ+、−で表現する時、積が+になると安定するという理論。上記の例ではA、B、Cをそれぞれ私、私自身、あの人として応用的に用いている。かえって分からない!?