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古書往来
43.PR誌の黄金時代を振り返る
─ 『嗜好』『真珠』から『放送朝日』『エナジー』まで

かえりみれば、私にはこれ以外にも、昔、長く購読していたPR誌がある。その中でもとくに印象に残っているのが、大阪朝日放送から発行されていた『放送朝日』である。かなり沢山持っていたはずだが、結婚して大阪へ移った際、神戸の実家の本棚に置いたままにしていたのを、ある時、本棚ごと、古本屋に処分されてしまった!そのため、今手元に一冊もないので、あいまいな記憶に頼って書くしかない。
『放送朝日』は、旭屋梅田店がJR(当時は、国鉄)大阪駅南側、今のヒルトンホテルあたりに、二階建てであった頃(階段はギシギシと音がする木造だったと思う)、たぶん私が創元社へ入ってから数年間(?)、毎月のように楽しみに買いに行ったものだ(なぜか、この店にしか置いてなかった)。これは大部分がアート紙のユニークなPR誌で、テレビ、放送、マスメディアに関する評論だけでなく、広い視野で情報文化、文明論にも及ぶ論説や座談、エッセイを毎号特集形式で掲載していた。例えば初期には梅棹忠夫氏の「お布施文化論」やそれを発展させた「情報産業論」が最初に載ったのもこの誌上だったと思うし、多田道太郎、加藤秀俊、山本明、藤竹暁氏たちも執筆していたと記憶する。また、小松左京氏の「エリアを行く」も連載されていた。中でも毎号、引きこまれて読んだのが、哲学者、山田宗睦氏の連載「道の思想史」で、井上青竜氏の迫力満点のカラー風景写真が添えられていた。詳細はもう忘れてしまったが、日本史の底流に見え隠れする古代大和民族に征服された出雲系民族(猿田彦神を主神とする流浪、漂流の民)の列島移動の痕跡を、氏自身が旅しつつ探査してゆく壮大な歴史ノンフィクションであった。これは後に学藝書林から出版され、私も入手した。それ以来、山田氏のファンになった私は、その後出版された氏の大部の評論集なども読んだが、一番魅力的なのはやはりこの著作である。山田氏とは一度出した手紙におハガキをいただいた位でお会いする機会もなかったが、近年になって私の編集した『誤植読本』に山田氏の旧著『職業としての編集者』(三一書房、平成8年)─ 氏の若き日、東大出版会での編集者体験を基に書かれた。本書も復刊してほしい名著だ。─ から、その一部を再録することを快く了承して下さり、うれしく思った。

もう一つの連載の目玉に、精神人類学という独自の分野を開拓した藤岡喜愛氏がホストとなり、主に関西のすぐれた学者たち ─ 文化人類学、動物学(伊谷純一郎)、植物史(中尾佐助)、催眠法、精神医学(加藤清)、薬物学など ─ を招いて対談する「人間を考える」があり、藤岡氏の巧みな話術とも相まって実に読みごたえがあった。これも後に、社会思想社から正続、各々上下巻で単行本化されていた。氏にもたしか、企画依頼の手紙を出したおぼろげな記憶があるが具体化せず、結局、後にNHKブックスから『イメージと人間』(昭49)を出された。実に惜しいことに割に早く亡くなってしまわれた。かえりみると、当時は我ながら知的好奇心がもっとも旺盛な時代で、こういった雑誌に刺激されていろいろな分野で企画を考えていたものである。(今は……聞いてくれるな、皆さん!)


『放送朝日』も書誌的なことがよく分らないので、朝日放送広報部に尋ねたところ、1954年4月に創刊され、1955年から月刊化され、1975年12月号で終刊になった、と教えていただいた。今回、表紙の書影が紹介できないのはさびしく、ふと思いついたのが、今でも強烈に印象に残っている粟津潔氏の表紙デザインで、氏の数冊出ている作品集にその一部が載っているはずだ、と目星を付け、例によって中之島図書館に出かけていった。実際は中央図書館から取り寄せてもらったのだが、予想通り、そのうち『粟津潔のブックデザイン』(河出書房新社、1977年)に、カラー図版で16点、『放送朝日』の表紙が出ており、「おお、これ、これだった!」と、旧知の友と久しぶりに再会したかのように懐かしく思った。

「放送朝日」表紙
「放送朝日」表紙

氏の解説によれば、1964年〜1969年の五年間、表紙を担当しており、その頃、人相図や解剖図、文字、活字などへの関心が高く、そのような実験的な作品を続々と誌上に発表していたという。たしかに、一目見て粟津作品と分る、個性的な表紙群であった。図書館でカラーコピーを頼んだのは言うまでもない。それ以後は別のデザイナーの表紙に変ったが(道吉剛氏だったか?)、それらも空間を思いきりあけ、記号や矢印を駆使した面白いデザインだった。

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