編集部より


真夏の夜の夢

黒田一樹です。随分とご無沙汰しておりますが、皆様ご機嫌いかがでしょうか。
おかげさまで『乗らずに死ねるか!』も発刊から1周年を迎えました。この間、本書で採り上げた中でも、引退が予想・発表された車両があったりと、世の常ではあるものの、時の流れを感じております。
私はと云えば、相変わらず「地下鉄による世界征服」に血道を上げており、さる4月には中国・カザフスタン・ウズベキスタンで5都市を訪問、乗車数は目下116都市に達しました。
また、5月からはスクウェア・エニックスの『月刊ビッグガンガン』で連載の始まった鉄道コミック「銀彩の川」(原作:萱島のぞみ/作画:倉田嘘)で監修を担当しております。リアリティを重視しつつ、フィクションでしかできないことも含めて、私自身が「乗らずに死ねるか!」と思いたくなるような鉄道に仕上げてあります。物語も作画も精緻の一言に尽きますので、ぜひご一読を賜れればと存じます。

関西アンダーグラウンドの作法part2創元社からも新刊を出すべく、鋭意執筆中ではありますが、先立つ8月21日(金)には鉄道セミナー「関西アンダーグラウンドの作法part2: 平成篇」に出演する運びとなりました。
1月に実施した「関西アンダーグラウンドの作法」の続編ですが、前回が大阪の地下鉄の草創期や万博前夜を中心にお話ししたのに対し、今回はかつてのような都市の威信をかけるほどでもない80年代以降の地下鉄・地下線が時代を反映しつつ、どのようにアメニティ化・バリアフリー化・建設費削減等に取り組んでいったのかについてお話いたします。
今回は、ご要望もあった金曜夜のセミナーです。皆様とご一緒に夏の夜を過ごせるのを楽しみにしております。

ぐずつく梅雨から夏へ。皆様お身体にお気を付けて、お元気でご活躍くださいませ。

ご来聴の御礼

皆様ご機嫌よろしゅう、黒田一樹です。
さる1月29日には、創元社鉄道セミナー「関西アンダーグラウンドの作法」でお話をする機会を得ました。「地下鉄による世界征服」を掲げる私にとって、地下鉄はひとつのライフワークでありますが、今回は京阪神の地下鉄・地下線について、大学で専攻した美学の方法論を用いたアプローチをいたしました。

車両や列車を主体としたパッセンジャー・エクスペリエンスに光を当てた「乗らずに死ねるか!」とは異なりますし、パット見たところは地味なテーマなので、果たしてどれほどのお客様を呼べるものやらと話しておりましたが、初めての方、毎回の方を含めて、満場のお客様がお運びくださいまして感激いたしました。なるほど特に、地下鉄は普段遣いの足ですから、ご来場の皆様にも共感いただける部分が多かったのではないかと思っております。
寒い中のご来聴、誠にありがとうございました。

モスクワにて私は本日より、出張でサンクトペテルブルグに来ております。ここサンクトペテルブルグの地下鉄は大阪の御堂筋線を凌ぐ絢爛豪華さで名高いモスクワの地下鉄にも勝るとも劣りません。また、私の知る限り世界初と思われるホームドアを装備した駅もございます。
「地下鉄世界征服計画」はあと数年で完了させるつもりではありますが、いずれ日本全国、あるいは世界中の地下鉄を、今回のような美学的方法論や、あるいは現在の専門であるマーケティングの視点で斬ってみたいなどと思い始めている今日この頃です。

謹賀新年

明けましておめでとうございます。黒田一樹です。
皆様お健やかに新春をお迎えのこととお慶び申し上げます。

私は年末に腰を痛め、無理をすると大変なことになるのが分かっているので、恒例の年始旅行をキャンセルして寝正月を過ごしておりました。世界の地下鉄めぐりも、目下111都市でストップしています。
『乗らずに死ねるか!』の取材・執筆が佳境に達していた昨年の今頃とは、ずいぶんな違いではあります。

一日乗車券締まりの無い日々を送ってはおりますが、来る1月29日にお話しする「関西アンダーグラウンドの作法」に関しても、どんな内容にするか思いを巡らせています。
私ははじめ、大阪の地下鉄は東京とは異なり、地域性は別として、路線ごとの個性に乏しいために、あまり興味を持てないのではないかと思っていました。そこで各地の図書館へと出かけ、文献を読み込みました。現場で新たな発見や疑問点が生まれたりなど、深く取材できるからです。
こうして腰を痛める直前に訪阪して取材しましたが、これが実に面白い。まったく地下鉄を見ると、都市が見えてまいります。1月29日のセミナー「関西アンダーグラウンドの作法」では皆様とご一緒に、分析的に、かつ感情移入しながら、「地下」を通じて京阪神の各都市を愉しめればと考えております。皆様のお目にかかれるのを楽しみにしております。

今年も本業だけではなく、道楽の分野でもいろいろ新しいことに取り組んでおります。こちらのサイトでも、適宜近況を報告して参ります。
皆様お風邪など召されませんよう、暖かくしてお過ごしくださいませ。

セミナーのご案内

ご無沙汰しております。創元社編集部、鉄道書担当のDです。今日は鉄道セミナーのご案内です。

創元社では、これまでに鉄道セミナーと題して、黒田氏を講師に2回のセミナーを行ってきました。スライドを駆使した鮮やかなプレゼンテーション、中毒性のあるトークが好評で、私も大いに楽しみました。第1回、第2回の様子については、弊社ブログ「こちら鉄道手帳編集部」でご紹介しています。

「関西アンダーグラウンドの作法」チラシ第3回のテーマは「地下鉄・地下線」です。一見、日陰者の地下鉄ですが、黒田氏の話を聞けば、じつはスゴくて面白いことが納得していただけるはず。セミナーのあとは、いつも乗っている地下鉄が違って見えること請け合いです。

開催概要は以下のとおりです。皆様のお越しをお待ちしております。お申し込みは、弊社セミナー申込サイトで受けつけております。

タイトル
「関西アンダーグラウンドの作法〈京阪神地下鉄・地下線ガイド〉」
内容
「景色のない電車なんて、何が楽しいんですか?」…わかっておりませんな。完全な人工空間ゆえに、かえって各鉄道事業者の個性や、建設時の時代性が色濃く反映されるのが地下線なのです。
  • 日本最強の地下鉄・御堂筋線
  • 関西最初の地下線・阪急京都線
  • 神戸の各鉄道を有機的に結びつけた神戸高速鉄道
  • 最新の阪神なんば線や京阪中之島線
「地下鉄」「地下線」をキーワードの、『乗らずに死ねるか!』の筆者が独自の視点と美しいスライド、中毒性のある話術でお送りする鉄道・都市文化論!
講師
黒田一樹氏
日時
2015年1月29日(木)19:00〜20:30
会場
創元社本社 4階セミナールーム
定員
50名(定員になり次第締切)
受講料
2,000円

なお、当日は会場にて黒田氏著作を含む弊社鉄道本、特製クリアファイル等を販売いたします(『鉄道手帳』の替えジャケットもご用意しています)。ご友人などお誘い合わせのうえご参加くだされば幸甚です。

刊行から3ヶ月

だいぶ涼しくなりました。皆様ご機嫌いかがでしょうか。黒田一樹です。

『乗らずに死ねるか!』の刊行以来3ヶ月が経ちましたが、さまざまな新聞や雑誌にご紹介を賜ったり、ラジオやポッドキャストに出演できたり、今なお多くの書店で平積みになっていたりして、大変嬉しく、有難く思っております。いわば「自分の商品」が店頭にきちんと並び、それを現場の方々が一生懸命販売してくださっている様子に、改めて感銘を受けております。経営コンサルタントの本業においても、学ぶところが大きうございます。

スライドから さる8月29日には、創元社のセミナールームにて「乗らずに死ねるか! 関西拡張版」と称した、出版記念講演を致しました。昨年の「乗らずに死ねるか! 関西私鉄篇」は、本書に収録した5つのパッセンジャー・エクスペリエンスを紹介した、いわば予告編でしたが、読者の皆様がお越しになる中で同じネタを提供するのもいささか芸がございません。
そこで、本書の取材の過程で「これもなかなかじゃないか」と思ったパッセンジャー・エクスペリエンスを6つ選んで、好き放題にお話し致しました。

講演の終了後には、プチ・サイン会と相成りました。私などはまだまだ無名ですので、著書へのサインなど気恥ずかしくもありますが、たいそう嬉しいことでもあります。お一人づつ言葉を交わしながら、心を込めてサインを入れていたら、気がつけば、講演会90分に対してサイン会は60分もかかってしまいました。

また、9月6日には、横浜のBankART Studio NYKで、トリエンナーレと連動した「東アジアの夢」の出展作家、開発好明さんの「100人先生 横浜の東アジア」に「地下鉄先生」として出演致しました。鉄道ネタでの講演では、ほぼ完全な新作です。 東アジアをはじめとする各地の路線図から都市の構造を、地下鉄に乗りながら時代や言葉を読みほどく方法を踏まえて、横浜の地下鉄をどう味わうかをお伝えしました。

この秋、私は国内外各地への出張を多数控えております。今はイランのテヘランにおります。次の更新では、楽しい移動をレポートできるかもしれません。皆様お元気でお過ごしくださいませ。

列車のセレクションについて

本書企画を進めるにあたって、黒田さんとまず話し合ったのは列車のセレクションについてです。

当初は、列車数(と人口)の多い首都圏や関西に絞ってセレクトする案もありました。地域を絞れば、誰もが知るフラッグシップや馴染みのある列車を取り上げることができますし、より深く掘り下げることができそうです。鉄道ファンと一口に言っても、全国の鉄道に目が行き届いている人ばかりではないでしょうから、そのほうが取っつきやすいかもしれません。

でもそういう列車は、本書で取り上げなくても、ほかの本や雑誌でたびたび取り上げられますし、その分みなさんもよくご存じでしょう。独特の審美眼をもつ黒田さんにかかればまた違った輝きを見せるかもしれませんが、そのラインアップを見ただけで、いまさら何をか言わんやの感をもつ人もいるでしょう。

一方で、各地方にも、黒田さん流に言えば、優れたポテンシャルを有する魅力的な列車がたくさんあります。関東や関西に在住する人には馴染みが薄いかもしれませんが、だからこそ知ってほしい、乗ってほしい列車があります。

列車そのものだけでなく、列車に込められた各社の知恵と工夫、線路沿いの景色、空気を感じとっていただきたい……というわけで、対象を全国に拡大することになりました。

列車の選出はすべて黒田さんまかせです。選出にあたっての編集部からの注文はひとつだけ。偏りが出ないように、なるべく各地方から選んでほしい、というものでした。紙数の制約上、列車は30本程度しか掲載できないにもかかわらず、全国から万遍なくとは虫のいいい注文ですが、黒田さんはとくに不平を言うわけでもなく、悩みつつも楽しんで選んでくれたように思います。

そうして選ばれたのが、本書掲載の27本の列車です。最初は地域ごとに並べるつもりでしたが、それではちょっとツマラナイかなと思ってラインアップをあらためて見ていたところ、通勤電車や地方私鉄、大手私鉄特急が一群をなしているのが目についたので、予定を変更して現在の目次に変更しました。地方ごとに並べるのもわかりやすくていいと思いますが、このほうが各列車の個性や世界観のようなものが際だって面白いと判断した次第です。

目次といえば、各章・各節のタイトルにもご注目願います。

たとえば第1章「通勤電車篇」には「日常に息づく知性と技術」とあり、京急800系には「最高にして最後の俺様電車」と付けられています。何だかよくわかりませんが、説得力があります。第2章「JR特急篇」には「風情と利便性のあいだ」、スーパーあずさは「交響曲・孤高の振り子特急」も妙な説得力があります。

南海・特急サザンの「純喫茶、臨港線、連絡船」や東武・尾瀬夜行の「飴色に沈む時間」といったフォトジェニックなタイトルもあります。列車が走る区間や時間などと合わせて考えると、これまた何だかよくわかりませんが、妙に納得できるタイトルです。

私は最初にこれを見せられた時、ひどく感心しました。さすがに広告の仕事をしていただけのことはあります(この才能は、もちろん本文のほうにも遺憾なく発揮されています)。本書をお読みになる際は、できればまず目次をじっくり読んでいただき、タイトルと列車名から湧くイメージを味わっていただければ幸いです。

観光地は日曜夜

JL21機内皆様ご機嫌よろしゅう、黒田一樹です。
『乗らずに死ねるか!』のご愛読、また特設webサイトのご高覧、誠にありがとうございます。これから月に一度ほど、このページをお借りして皆様にご挨拶と近況報告を申し上げます。

目下、私はJL91便で北京に向かっています。機内で地酒と少し懐かしい音楽を味わい、軽くまどろんでから本文を書いております。
列車、フライト、バス、船の如何を問わず、パッセンジャー・エクスペリエンスの満喫は、あたかも一篇の音楽を味わうが如し、ですね。あと1時間少々で着いてしまうとは実にもったいない。

さて、さる6月29日、『乗らずに死ねるか!』の出版を祝して、鉄道好きの仲間が箱根の「ガーデンレイルウェイ・カフェ」でパーティを開いてくれました。

新宿駅VSE
ガーデンレイルウェイ・カフェ

もちろん往路は、9:00発のスーパーはこね。新宿集合のメンバーがちょうど12人いましたから、VSE3号車のサルーンシート4席×3ボックスの貸切と相成りました。山梨県産・甲州種のワインを供に、天窓からの光、地下線での雰囲気の変化、精選された乗務員やアテンダントの接客、VSEの走りを存分に味わいました。
また箱根湯本〜強羅間の登山電車は列車2本を見送り、古豪・モハ108号の先頭にて、しっぽりと咲き誇る紫陽花と、ダイナミックな勾配を堪能しました。

訪ねた箱根に、改めて私は観光地としての凄味を感じました。なにしろ、梅雨の季節には紫陽花、夏は避暑、秋は紅葉、厳冬期も駅伝と、オフシーズンらしきものが見当たりません。年間を通じてホテルの値段が高止まりしているのが何よりの証拠です。
もちろん登山電車→ケーブルカー→ロープウェイ→観光船→バス、の所謂ゴールデンコースが一役買っているのは云うまでもありません。登山電車など、不況が嘘のような混雑です。増発も限界に達しているため、この秋からは増結車・3000形が登場します。

とは謂え、静寂を楽しみつつパッセンジャー・エクスペリエンスを味わうには、過度の混雑は避けたいところです。しかしながら、上述のように大凡、箱根にオフシーズンがあるとは考えられません。
そこで私は、箱根に限らず特にシーズンの観光地を訪ねるなら、月曜日に休みをとり、日曜夜の下り便にお乗りになるようお勧めします。サザエさんタイムに、世間から逃避するように列車に飛び乗るのです……VSEの走らない時間帯であるのは惜しまれますが。このように閑散時間帯を把握すると、いっそうプレミアムなパッセンジャー・エクスペリエンスを味わえることでしょう。

さて、『乗らずに死ねるか!』発売記念キャンペーンの一環として、7月5日(土)、東京ビッグサイトにおける東京国際ブックフェアの創元社ブースにお邪魔しました。読者の方とふれあえる、大変嬉しく有難いひとときを過ごせました。
また、8月29日(金)には「乗らずに死ねるか!関西拡張版」と題して、大阪の創元社にて講演の運びとなりました。目下鋭意準備中です。皆様のお目にかかれますこと、楽しみに致しております。

暑くなってまいりますが、どうぞ皆様、お健やかにご活躍くださいませ。

第1回 タイトル秘話

鉄道ファンの皆様、そうでない方も、ようこそ『乗らずに死ねるか!』特設サイトにお越しくださいました。本書の編集を担当した創元社編集部のDです。

当サイトでは、黒田一樹氏の『乗らずに死ねるか!』(以下『乗ら死ね』)の見どころや製作裏話をお伝えしていきます。本書の内容紹介はもちろん、本に掲載されなかった事柄、CM動画、イベント情報など、本書に連動したコンテンツをご用意しています。どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

当記事では、編集者の目から見た『乗ら死ね』の魅力をぼつぼつご紹介したいと思います。今回は書名について。

ご覧のとおり、本書のタイトルはかなり強い言葉です。鉄道の本なのに「死」という言葉が入っていて、人によっては違和感を覚えるかもしれません。実際、このタイトルが決まるまでには社内でも紆余曲折があり、私自身もけっこう悩みました。

が、いまではこれで良かったと思っています。というのも、このタイトルであったからこそ、「黒田節」が遺憾なく発揮され、時に舌鋒鋭く、時に情感豊かな読み物になったと思われるからです。

本書あとがきにもあるように、黒田氏とは本当に何度も議論しましたが、『乗らずに死ねるか!』というタイトルでなかったならば、お互いにあれだけのテンションを保てなかったのではないかと思うのです。

乗らずに死ねるかタイトルロゴその熱意が通じたのか、書名を『乗らずに死ねるか!』で進めて良いことになりました。少なくとも二度却下されたのですが、この頃には黒田氏は「乗ら死ね」を連呼しており、ここでタイトルを変えるとモチベーションに大きく関わるので、できるだけ粘りました。結果、ゴーサインが出たのですが、これは装丁を担当した濱崎氏によるところも大きかったと思います。

最初はタイトルに明朝体を使っていたのですが(それはそれで力強く、私は気に入りました)、「そういうことなら……」と、ややポップな手書き文字にしてくれました。これでだいぶ印象が変わっただけでなく、文字もより大きくなり、インパクトの強い装丁になりました。

社内でもいつのまにか「乗ら死ね」が符丁となりました。営業部のG氏に「『乗ら死ね』の注文書のことなんですけど……」と言われた時には、ちょっぴり嬉しく思いました。

とはいえ、内輪だけで喜んでばかりもいられません。本は読まれてこそ、値打ちがあります。読者の皆様にもこの書名が違和感なく受け入れられ、書名に偽りなしと思っていただけますように。