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[ 監訳者のことば ]

柴田元幸
翻訳家

「信じがたい芸術的開花のなかでも、いまだその輝きを失っていない最高の傑作群である。」

アメリカン・コミックの素晴らしさを語ろうとすると、「どうせスーパーマン、スパイダーマンだろ」と言われていつも悔しい思いをしてきた。でなければ「まあ『ピーナッツ』あたりはけっこう文学的だよね」とか。
だが、20世紀のあけぼのから1930年代あたりまで、アメリカでは新聞漫画のものすごく豊かな世界が広がっていたのである。1ページをまるまる使った、色も構成もストーリーも言葉遣いも凝りに疑った、時に華麗、時に滑稽、だがつねに心に取り憑くとびきり上級のアートを、読者は人気TVドラマを待つように楽しみに待った。よかれあしかれ、新聞の売れ行きも漫画の質によって左右され、新聞社は人気漫画家の争奪戦をくり広げた。
今回このシリーズに収められた作品は、そうした信じがたい芸術的開花のなかでも、いまだその輝きを失っていない最高の傑作群である。『眠りの国のリトル・ニモ』の<たのしい悪夢>を、『クレイジー・キャット』の叙情的にしてシュールな風景を、『ガソリン・アレー』の日常性と芸術性のあざやかな混じりあいを、グスタフ・ヴァービークの視覚的・言語的アクロバットを堪能いただければと思う。

[ 推薦者のことば ]

荒俣 宏
作家

アメリカン・コミックの原点を知って、おどろけ!

マンガが文章の添え物でなく、ページの主役となったとき、現代コミックは誕生するのだが、その母体こそがアメリカの新聞だ。文字が読めない人にも新聞を売る切り札として、あのピュリッツァーが試みたのが、日曜版にカラー印刷の連載マンガを載せることだった。このときついに絵は文章を超えた。以来百年余、コミックストリップが発明した『読める絵』の驚くべき実験成果を一覧すれば、現代マンガよりも過激で、斬新で、ブッ飛んでいる!

クリス・ウェア
漫画家、『世界一賢い子供、ジミー・コリガン』の著者

芸術史的偉業

数千年前に日本で絵を読む技術が発明されていることを思えば、アメリカの比較的最近ともいえる努力のあとを、創元社が翻訳と贅沢な翻刻に値すると見なし、絵を読む力がそうとうにあると思われる読者層に供してくれることはことのほか喜ばしい。手短かにいうと、日本の読者の皆さんが僕たちの初期のコミックスを楽しんでくれるといいなと思います、僕たちが皆さんのマンガを大好きになったみたいに。

佐藤卓己
京都大学准教授、メディア史・大衆社会論

メディア史研究における第一級資料

二十世紀は「アメリカの世紀」である。この「イメージの帝国」は複製技術革命graphic revolution(ダニエル・J・ブーアスティン『幻影の時代』東京創元社)によって世界に君臨した。そのパワーの原点が、今回原寸原色で翻訳されたアメリカ新聞コミックである。もちろん、今日では紙面全体を使ったコミック・ストリップは珍しい。しかし、それは新聞そのものが誰が見ても楽しめるコミック的なメディアに変わったために他ならない。メディア史研究における第一級資料の刊行をよろこびたい。

竹宮惠子
漫画家、京都精華大学学長

「Manga」へ連なる原初の流れ

アメリカン・コミックを語る時、大抵の場合、多くの人が知る作品群が取り上げられる。だが、それらの作品にも実はそれ以前の時代がある。次の時代への方向がまだ見えず、だからこそ、混沌とした坩堝の中で醸成される爛熟の時があったはずだ。多くの新聞が姸を競った時期に育てられた、実にパワフルで多種多様なコミックの「提案」の数々。これは、次代のアメリカン・コミック、ひいては「Manga」へ連なる原初の流れとして、是非、多くの人に認識して欲しい作品群である。

鶴見俊輔
評論家、哲学者

アメリカが世界に送りだしたもの―漫画と映画―

今でも私は夢が英語ではじまると、終わりまで英語で見ます。小学校卒業でアメリカに渡って、日本語を忘れたせいです。『ガソリン・アレー』が連載中で、おっとりとした味わい。アメリカは移民の国です。だから英語を知らなくても物語に我を忘れることのできる漫画と無声映画がここで育って、ここから世界を巻きこんでいきました。私は日米戦争で交換船に乗って日本に帰ってきましたが、その前に出会った漫画と無声映画とが、今でも夢に戻ってきます。

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