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古書往来
57.編集者、松森務氏の軌跡を読む ─ 白鳥書院から平凡社への道 ─

今回はなかなか珍しいと思われる、一人の編集者の書いた一冊の私刊本を詳しく紹介しよう。
たしか、東京古書会館でのグループ展の目録で、神田、司書房の欄に出版関係の本が並んでいて、その一冊に未知の著者とタイトルの本、松野杜夫『青春の邂逅』(私刊、昭和55年、限定200部)とあったので、少々高かったが思い切って注文してみたのだ。タイトルからして、自伝的な内容が想像されたからである。当ったとみえてしばらくして送られてきた本の包みを解き、その姿が現れると、少なからずびっくりした。造本が大へん凝っていたからだ。

外函
外函

枡型本で、二重函、外函にも真中に手書きのタイトルが別紙で貼られ、水彩のカットが添えられているばかりか、中函も著者の思い出のコーヒー店の外観を木片(?)に色付けして貼りつけた立体的なものである。タイトルも水彩の手書きっぽいもの。本体表紙にも花の水彩画が貼りつけてあり、本をめくると又々別紙で草花の水彩画を貼りつけた扉が現れるといった案配……。

中函
中函

この著者はよほど美術好きなのだな、というのが第一印象であった。(これは本文を読んでなるほどと納得する。)これらの絵のサインが「つとむ」となっているので、別人の画家のものかと最初思っていたが、読んでゆくと、松野杜夫はペンネームで、目次にある造本・装画=松森務、が本名だと分った。(以下、本名で表記)。

表紙
表紙
扉

これは面白そうだと思い、私は珍しく、届いた本をすぐ読み始めた。期待にそむかぬ充実した内容で、四、五日で読みおえた。さすがに若い日、小説も書いた人だけあって、文章も簡潔、明快な文体である。
本書は三部に分かれていて、第一部は著者が大正11年、八王子に生れてから、小学校、府立二商を経て、東京海上に入社、台北出張時代の昭和19年までのサラリーマンとしての自伝。第二部に入り、いよいよ出版界に転職し、本格的に編集者としての生活が始まる。まず昭和23年までの白鳥書院時代を描く。第三部では、文寿堂、コミックス社、三層出版社と変遷し、最後に30年近く在籍中の平凡社時代を昭和33年まで辿っている。著者の半目叙伝ともいうべき内容である。平凡社は有名だが、他は今は亡く、私が全く知らなかった出版社だ。本文には写真はないが、その代り目次に各々の出版社時代に手がけた雑誌や本の書影を巧くレイアウトして載せているのも珍しい。

目次
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