10.無ゆう病シンドローム(※注1)

無遊病……遊べない病気。いったん遊んでしまうと元に戻れないのではないかという不安が首をもたげ、遊べなくなる。遊ぶどころか、休むことすらママならず、ひたすら走り続けていないと倒れてしまう気がする。「忙しい、忙しい」と疲れを知らぬかのように仕事ばかりしている人もいるが、そういう人の場合、実は、「仕事」で遊んでいたりする。それが証拠に、仕事中の彼らの様子は、中途半端に遊んでいる人よりはるかに幸せそうである。したがって、そうした人は無遊病と区別して、夢中病という場合もある。大感情障害の辺縁群、とりわけ鬱との親和性は高い。

無友病……友達がいない病気。いじめられてたからとか、小中学校時代に転校が多かったからとか、不幸な過去を背負う場合もあるが、かつてクラスの人気者であったのに、いつの頃からか人嫌いになり、引きこもるようになって、ますます自ら殻を閉ざしてしまった結果罹(かか)ることもある。幼い頃からの無友病は、広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)(※注2)などの可能性もある。

無勇病……勇気を持とうとしない病気。進んで何かをする、敢えてリスクを冒して頑張るなどというチャレンジをことごとく嫌い、ひたすら表舞台、矢面に立つことから降りようとする。無気力、アパシーなどと揶揄(やゆ)されていた時代もあったが、現代では下流志向、負け組、ダメ連として、多数の青年たちを巻き込む一大潮流となった。

無憂病……憂いをもてない病気。憂いばかりか喜びや怒りなど、いわゆる感情を表情として表に出すことを極端に嫌い、実際に何も感じていないかのように振舞う。多く幼児期からの習い性のため、自分自身も感情をつかみ損ねて、自分が何を感じているか「わからない……」と言う。激化するとアレキシサイミア(※注3)を基盤にした心身症、時に多重人格などの解離性障害(※注4)に陥る。

無夕病……夕刻、たそがれがない、もはや日が翳(かげ)ろうとしているのを認めようとしない病気。毎日のようにスポーツジムに通い、筋力トレーニングを欠かさず、妙にバタ焼けした筋肉隆々の肌をひけらかして、大声で気合を入れてバーベルを持ち上げたりする中年以降の男女。不思議と髪の手入れだけはぞんざいで、白髪混じりだったり染めむらがあったりする。漢流アイドルに血道を上げているうちはよいが、夢をもう一度と若者たちにちょっかいをかけ出すと、もとがヒステリー的で強迫的なだけにストーカー化しやすい。

無由病……理由もなく不自由を感じる病気。真綿で首を絞められるような、誰のせいでもないのに悲しいことはいつでもあるような気分が遷延化(せんえんか)する。現代人の83%が罹患(りかん)。

注1
言うまでもありませんが、全てシャレです。
注2
かつては自閉傾向などと言われた対人関係障害、コミュニケーションの障害を伴う幼児期、小児期に顕在化する障害。
注3
失感情症と訳されるが、感情を表現する言葉や表情に乏しい、もっぱら心身症患者に見られる特徴。
注4
過去の記憶やアイデンティティ、直接的感覚などの統合が全面的、あるいは一部失われる障害。多重人格や離人症性障害などを含む。