8.請ひ人

誰か私を呼んで
「おおい」と呼んで
「ここだよ」と叫んで
「暇なんだ」と電話して
「会いたい」とメールして
「君が必要だ」と求めて
「あなたが欲しい」とすがりついて

誰も呼んでくれないと
私はどこにも行けず、何もできない。
呼ばれて、請われて、求められて、
初めて私は生きていてもいいんだと思えるから……。


痛いほどに求められることを請う人がいる。愛されることや恋することではなく、請われることを請う。彼や彼女の欲望は、自分の内にはなく、むしろ他人にある。

そんな「請ひ人」に、自らの欲望を問うことは、懲罰にも似た責め苦であることを、周囲の人々は気づかねばならない。「あなたのしたいことは?」「あなたが求めること」「君の望むものは?」「あなたが欲するもの」……答えはいつも自分にはなく、相手の中にあるものだから、「請ひ人」は必死で相手の望みを探り当てようとする。まるでそれを掴(つか)みそこねたら、生きている意味を見失うかのように……。

往々にして彼らの生育環境には、子どもの支えを必要とする大人の存在を発見することが多い。すぐに落ち込んで不安定になる母、些細なことですぐにキレる父……そうしてまた、その配偶者が見事なまでに彼や彼女のモデルとなって、不安定なつれあいを支えていたりする。機能不全家族だの共依存だのAC(※注)だのと、言ってみたくもなるくらい、その組み合わせは鮮やかで、それだけに家族全員お互いに、抜き差しならぬ関係なのだと思い知る。


概して「請ひ人」は他人の要求や願望や望みを……欲望を窺い知る能力に長けているから、それを生かせばサービス業で成功を収めるかも知れない。マッサージ師や介護者、ホストやお水の業界、占い師……いわずと知れたカウンセラーもまた、「請ひ人」向きの仕事である。自分探しの挙句の果てに、他者の欲望に生きる意味を見出したのだから。そうして彼らはちょうどこの私のように、仕事のない日は誰かに請われることを心待ちに、日がな一日を無聊(ぶりょう)のうちに過ごすのだ。

アルコール依存の家族成員に特徴的に見られる傾向。クリントン元大統領が自らAC宣言をして流行し、現在はより幅広い精神疾患の背景要因として用いられている。