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創元社NEWS*2021年11月号

自分の年齢を意識する。そんな節目が人生にはいくつかありますが、私にとってそのひとつは、同学年のスポーツ選手の引退報道に触れたときです。今年ヤクルトの雄平選手が現役生活を終えましたが、じつは高校時代、私の母校は彼の所属する東北高校と甲子園で対戦したことがあるのです(もちろん私はスタンドで観戦するただの一高校生でしたが)。
当時の雄平選手は超高校級左腕として有名で、投げる球もほかの高校生とは別格。プロ入り後、投手としては苦戦するものの、打者に転向して以降はパンチのある打撃で現役を続行。ふだん、自分以外の誰かに何かを託すといった習慣をもたないと私は思っていたのですが、雄平選手の現役生活にはどこか励まされるものがありました。
引退後もセカンドキャリアは続きますが、まずは本当にお疲れさまでしたと言いたいです。というわけで(どういうわけで?)、今月の創元社メルマガをお送りします。(A)

編集者の裏×裏・・・イチオシの新刊を担当編集者の声とともにご紹介。
新刊&近刊情報・・・絶賛発売中&これから発売予定の新刊ラインナップ。
営業部だより・・・営業部員がお届けする、本が読まれる現場からの報告。
「じんぶん堂」掲載情報・・・「じんぶん堂」に掲載された弊社記事をお知らせ。
 編集者の裏×裏(ウラジジョウ)
イチオシの新刊を担当編集者の声とともにご紹介。
 

哲学の蠅【11/16発売】
吉村萬壱著 定価2,200円(税込)

現代日本の異端の小説家・吉村萬壱がデビュー20年の節目に著す初の自伝的エッセイ。著者が血肉としてきた哲学書を取り上げ、創作との結び付きを考えながら、読むこと、書くこと、ひいては生きることそれ自体の意味を問う。

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担当編集者より
 『哲学の蠅』を読んでいると、ああ自分のことだと思う瞬間がある。例えばそれは、16歳の吉村少年がクラスメイトを毒蠅だと見下すことで平静を保つ場面であり、心の支えであった彼女への嫉妬妄想に狂ったあげく実家へ引き籠る場面であったりする。もちろん私に同じ体験は無いが、その時に感じたであろう羞恥心や焦燥感、暴力的な怒りには身に覚えがある。吉村萬壱が描く身心の痛みの感覚は、読み手の生理にダイレクトに働きかけてくる。
 さて、このようなとき、吉村さんの傍らにはいつも本があった。コリン・ウィルソンやニーチェ、ハイデガーや井筒俊彦。書かれている内容は分からなくても側に置いておくだけで精神が落ち着いたと言う。これらの本に記された一つひとつの言葉との邂逅が、際どく今の吉村萬壱を存在させている。

 吉村さんの小説世界は、暴力や虐殺、恥辱や幻想などにまみれている。にもかかわらず、芥川賞を受賞した「ハリガネムシ」の選評には、「言うまでもなく、作者は優れてモラリストである」(高樹のぶ子)とあった。自身が「宇宙人的視点から見た人類の像を思い描きながら執筆している」と言うように、吉村さんはあらゆる人間の営みを正視する眼を持っている。その眼を通して描かれた作品からは社会批判のメッセージが多分に読み取れるものの、決して誰かを断罪することはなく、既成の価値観に対する問いを提供するに留められている。
 また、この眼差しは自己を取り巻く世界だけではなく己自身にも向けられている。母親から受けた体罰も、自身の手によって取り返しがつかなくなった仔犬の命も、愚行も、狂気も、『哲学の蠅』では包み隠さず描かれている。本来なら隠されるべきものたちが白日の下に晒されたとき、世界の自明性や世間の正当性は失われ、意味や価値は反転し、混沌が立ち現れてくる。

 哲学が世界を再解釈するよう読み手に促すものならば、懐疑的思索者である吉村萬壱の小説は間違いなく哲学小説であり、『哲学の蠅』もまた、誰も描き得なかった哲学の本である。サルトル、ドストエフスキー、カフカ、安部公房など、吉村さんが血肉としてきた作品たちと同様に、『哲学の蠅』を読み終えた読者は決して無傷ではいられないが、同時に大いなる解放感も味わうことだろう。
 在りし日の吉村少年が『ツァラトゥストラ』に救われたように、『哲学の蠅』が生きづらさを抱える誰かの救いとなれば、これほど嬉しいことはない。
(AN)
 新刊&近刊情報
絶賛発売中&これから発売予定の新刊ラインナップ。

神田橋條治 スクールカウンセラーへの助言100【10/5​​​発売】
神田橋條治著/かしまえりこ編著 定価2,860円(税込)

心理療法と情念 イメージとの対話による主体の生成【10/14発売】
松井華子著 定価3,960円(税込)

ちょっと長めの詰将棋【10/14発売】
高橋道雄著 定価1,100円(税込)

 

世界で一番美しいアシカ・アザラシ図鑑【10/19発売】
水口博也編著 定価3,960円(税込)

ユング派分析家資格取得論文シリーズ第2巻 個性化における「私」と「身体」
アニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』と『イノセンス』の分析を通じて【11/15発売】

齋藤眞著 定価4,400円(税込)

SDGsな生活のヒント あなたの物の使い方が地球を救う【11/22発売】
タラ・シャイン著/武井摩利訳 定価3,630円(税込)

たくましくて美しい ウニと共生生物図鑑【10/14​​​発売】
山守瑠奈著 定価1,870円(税込)
 

結婚の深層【10/14​​​発売】
A・グッゲンビュール=クレイグ著/樋口和彦、武田憲道訳 定価3,850円(税込)
 

森と樹木の秘密の生活 だれも知らない神秘の世界【10/14​​​発売】
オラヴィ・フイカリ著/大出英子訳 定価1,320円(税込)

ルース・B・ギンズバーグ名言集 新しい時、新しい日がやってくる【11/2​​​発売】
岡本早織訳 定価1,650円(税込)

思いやる心は傷つきやすい パンデミックの中の感情労働【11/16​​​発売】
武井麻子著 定価1,650円(税込)
 

「母なるものの元型」イメージがもたらす心の変容 事例に見る「二度生まれの心理療法」論【10/14発売】
井上 靖子 著 定価4,070円(税込)

ネガティヴ・イメージの心理臨床 心の現代的問題へのゼロベース・アプローチ【10/14発売】
松下姫歌著 定価3,960円(税込)

IoT モノのインターネット【10/14発売】
高安篤史著 定価1,980円(税込)
 

共に生きるスピリチュアルケア 医療・看護から宗教まで【11/15発売】
瀧口俊子、大村哲夫、和田信編著 定価3,520円(税込)

しなやかに生きる 智慧と希望のことば【11/16発売】
松浦眞人著/前田まゆみイラスト 定価1,760円(税込)
 営業部だより
営業部員がお届けする、本が読まれる現場からの報告。


書店営業職は、全国の書店を訪問して売れ行き良好書や新刊などを案内する仕事ですが、このご時世、なかなか県をまたいでの出張に行くことができません。ご挨拶ができないまま、書店のご担当者が異動や退職をされていたり、あるいはお店が閉店してしまったりと、残念な思いをすることが続いています。
そんな中、今年の8月に入居するビルの建て替えのため閉店された紀伊國屋書店天神イムズ店様で、数年前に展開された『読む時間』フェアは、折に触れて思い出す忘れられないフェアです。
――人が本を読む姿は 時代を超えてなお こんなに美しい――という手描きのPOPと手作りのパネルを飾ってのご展開。数ある出版社の数ある書籍の中から、この1点のためにこれほど手をかけてくださる熱意に頭が下がる思いでした。
全国の書店には、オリジナリティ溢れるフェアを作る書店員が多くいらっしゃいます。そんな書店の皆様に、日常的に会いに行ける日が早く戻ってくることを願ってやまない今日この頃です。
(TI)

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