観点変更
今中博之著
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月刊福祉 2010年1月号
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冨田章氏(サントリーミュージアム[天保山]学芸部長)評
知的障がいのある人のなかに優れた芸術的才能をもつ人が少なくないことは、美術に関わる人間にはよく知られている。しかし、こうした才能が評価されることは滅多にない。周囲の人がそれに気づかずに埋もれてしまうか、気づいたとしても、それを「指導」することで才能を台無しにしてしまうからだ。
そうした才能を見出し、見守り、障がいのある人の自活にまでつなげよう、というユニークな活動を続けているのが社会福祉法人アトリエ インカーブだ。本書は、その理事長であるデザイナーの著者が自らの半生を振り返りつつ、この施設の理念と、その誕生から現在までを語ったものである。
インカーブでは、通所者をクライアントと呼ぶ。スタッフはすべて美術やデザインのプロだが、クライアントたちの制作にはいっさい口を出さない。彼らの才能のほうがずっと優れている、という意識が徹底しているからだ。こうした運営姿勢や、彼らの作品を評価できない日本の美術界を尻目に、アメリカで高い評価を得るに至る過程などは本書の読みどころだが、評者が指摘したいのは次の点だ。
インカーブは、クライアントの才能の優劣をそのまま受け入れる。インカーブには、作品1点が何十万、何百万という金額で売れるクライアントが何人かいる。作品の代金はそっくりそのクライアントのものとなる。これは一律に同じ作業をさせ、全員平等の工賃を支払う、従来の授産施設のあり方の対極にある。健常者に才能の差があるように、障がいのある人にも才能の差がある。それを正当に評価すれば、収入の差という結果になるのは避けられない。著者はこれを全面的によしとしているわけではない。常に葛藤しながら、それでも彼はこのシステムにこだわり続ける。それは日本の福祉に対する著者の問題提起なのだ。(中略)
矛盾に満ち、多くの葛藤を抱えている日本の福祉行政に、著者の思想が投じる一石は小さくない。
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