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漱石、ジャムを舐める
河内一郎 著

  • 週刊ポスト 06年9月1日号
  • (「ポスト・ブック・レビュー」より)
    本間千枝子氏評(随筆家)

    作中の「食」に着目することで、文豪が身近に感じられる

    最近の日本では「食」を論ずることが限りなく盛んだ。食にはさまざまなレベルがあり、切り口、語り方、書き方も一般向けからハイブラウまで千差万別である。
    しかし食を通してある人の人間理解に迫り、その人物の生きた時代と社会を知ろうという体系的研究はこれまであまりなされて来なかった。
    本書『漱石、ジャムを舐める』を一読した私は、著者河内一郎氏が高校時代に志して以来の漱石研究を、あえて食の分野に集約したその蓄積の厚みに胸を打たれた。
    河内氏は三八年勤務した食品会社を退職した後に、「いまに及んで漱石の人および文学を語って、新しい発掘などあるはずもない......」という世の通念に説得されつつ、「漱石の生涯五〇年の期間における食文化史」を纏めることに一筋の光明を見出した。
    したがって本書の中には、文学研究での初志貫徹とそれを支えた自らの専門「食」の驚くべき融合がある。それだけに本のつくりがこれからの漱石と彼の時代の研究に新しい役割をはたすべく親切な構成だ。
    (中略)
    家庭用アイスクリーム器や平野水、牛鍋......などの懐かしい名称が具体的情景の説明とともに描かれる頁を読むうちに、文豪といわれる作家その人が、つい身近な存在にさえ感じられてくる。
    (中略)
    「過去は過ぎ去ってさえいない」というフォークナーの言葉が脳裏に浮かぶ。漱石はもちろん、苦沙弥先生も三四郎も清も猫も、みな時代を超えて食と生活の小宇宙の中に生きている。
    食文化年表、物価表、漱石の収入と家計簿から成る第二部とあわせて、「漱石の食文化」は作家研究の貴重な新資料となろう。
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