
肴のある旅
中村よお 著
中村よお氏の新刊は、音楽を背景に酒場を語る味わい深い本
酒場というのは、神聖な場所であり卑俗なところでもあり、別れと出逢いの場所でもある。曖昧な記憶のさまざまが、この空間のあちらこちらに置き忘れられているように思えてならない。
関西を中心に活躍するシンガー・ソングライターで、本誌でもお馴染みの音楽ライター、中村よおさんの新刊『肴のある旅』は、そんな酒場に関する本。サブタ
イトルに「神戸居酒屋巡回記」とあるが、昨今流行の居酒屋グルメ本なんかじゃない。点在する酒場を巡りながら、背後には絶えず音楽が流れ続けている。酒や
料理そのものを語るというよりも、酒瓶ごしに綴られていく物語がめっぽう面白い。それが、路地裏の古本屋であったり、今はもうなくなってしまったロック喫
茶や映画館の話であったり...。高田渡や三上寛、西岡恭蔵などなど、ともに杯を重ね合ったミュージシャンの顔ぶれも、黄昏の彼方からぼんやりと浮かび上がっ
てくる。
それぞれの項の英文タイトルには洋楽のロック、ポップスの曲名が引用されているが、それがまるで気の効いた肴(あて)のように、この書をさらに豊かなもの
にしている。酒場こそ人生であり、かけがえのない学校であることを教えてくれる一冊。そして、お世話になった酒場たちへの感謝にあふれた本なのだ。
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