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肴のある旅
中村よお 著

  • 毎日新聞夕刊(東京版) 07年1月30日
  • (「今夜も赤ちょうちん」より)

    鈴木琢磨氏評

    あれから12年か──。阪神大震災の日、東京からなんとかたどり着いた神戸は廃虚だった。がれきと炎、月までもが赤かった。路地裏ばっかり歩いて、サンデー毎日にルポを書いていたのが昨日のことみたいでね。1・17も過ぎ、みんな、どないしてるやろ。
    で、今夜は、といっても夕暮れ、JR元町駅向かいの「八島食堂」中店へ。毎日新聞神戸支局とは目と鼻の先。地元のシンガー・ソングライターで、神戸の居酒 屋を舞台にしたあったかエッセー「肴(あて)のある旅」(創元社)を出した中村よおさんと飲んだ。「つらいです。ええ飲み屋さんがどんどんなくなっていく のがね。元町金盃も閉めたし」
    かつお節とネギがたっぷりかかった湯豆腐をつつく。なにげない総菜でいて、この街を癒やした深い味がする。キラキラおしゃればかりが神戸じゃない。それを 東京は知らない。瀬戸内の季節もの、いかなごを焼いてもらえば、ビールはいくらでもいける。テレビはずっと競馬中継。赤鉛筆をなめなめ、おやじたちは一獲 千金をば夢見ている。
    ところで、「神戸のなぎら健壱」、よおさんが70年代にいりびたっていたのが南京町にあった伝説のロック喫茶「VOXヒコーキ屋」、このコラムの隣、「し あわせ食堂」の絵を描く武内ヒロクニさんがマスターだった。へえ。人と人のめぐりあいの不思議を思って、ちょっと酔っちゃった。神戸男はどこかあかんた れ、居酒屋バカはそこが好きだなあ。震災の悲劇を乗り越えてきた秘密なんだから。
    よおさんはラジオ関西のDJもしている。もうじき本番ですから、と言い残して、出ていった。ラジオを聞いていたら、野坂昭如さんの歌声が。♪マリリン・モンロー、ノーリターン......。
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