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肴のある旅
中村よお 著

  • 神戸新聞 06年10月1日
  • 人生の肴ふんだんに 蘊蓄に身も心もほかほか


    (前略)

    ディープとおぼしき愛飲家は該当ページを開き自身の"得々酒場哲学"との比較を試みてほしい。ご存じなかった方には「中村流居酒屋彷徨」をじっくり味わった上で、肌に合いそうな店を訪ねることをお勧めしたい。
    著者は神戸に生まれ育ったシンガー・ソングライターで、文筆業兼DJというマルチタレント。「神戸居酒屋巡回記」の副題通り、市内の「日常的に通える」居酒屋を巡っての感想や蘊蓄を集めたもので、決して「ガイドブック」ではない。
    (中略)
    ガイド本との最大の違いは、著者が長年行きつけ、魅力を熟知している点であろう。各店は、音楽仲間や文筆・放送関係者らと杯を交わし、辛口評も辞さない猛者連の"舌と算盤"のふるいに掛けられてきたのである。
    当然ながら、いずれも常連客で盛況を極めており、大半があえて「紹介ご無用」とも聞いた。そうした配慮からか、巻末にわずかなデータが付け足されているだけで、地図さえないのは、著者の見識の成せる業だろう。
    「居酒屋の紹介」が目的でないことは、後半の「飲酒的日常」を読めばより明らかだ。店主の引退や震災などで消えた店への哀悼の念が、さながらレクイエムのようにノスタルジックにつづられているからである。
    といっても軽やかなエッセー調で、時に話題が「酒」から離れ、元町の高架下辺りの散歩コースに点在する好きな古書店やレコード店の話へと移る。本題が行方不明になったりするのもまた「彷徨」らしくていい。
    「肴のある旅」は、また「居酒屋を肴にした街歩きの旅」でもある。

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