家裁調査官のこころの風景
中村桂子 著
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ケース研究 290号
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本書は、元家裁調査官である著者が現職中に出会った、様々な事例を取り扱ったものであり、自己訓練のため、長年プロセスレコードの作成を自らに課してきた
営みの集大成とも言うべきものである。どの章の事例においても、当事者や少年の姿が生き生きと示されるとともに、その事例にかかわる調査官の思い、戸惑
い、悩み、気付きといった心の動きが丹念にたどられ、自問自答の末に問い掛けを発している面接場面が臨場感を持って描かれている。さらに、当事者や少年と
調査官とのやり取りや事例全体の流れを冷静かつ温かな目で見つめている著者の姿がある。その結果、プロとしての確かな視点が感じられる事例報告であるばか
りか、読み手に穏やかな感動を呼び起こす内容となっている。まさに著者が言うところの「等身大の実務家」としての優れたプロセスレコードであると思う。ま
た、取り扱われている事例は、相当以前のものに基づいているというが、その当時から、現在の我々が直面している実務上の課題(子の意思を把握する趣旨、保
護的措置が目指すもの、面接交渉の意義、補導委託先の開拓、調査におけるインフォームドコンセントなど)に著者が着目していたことには驚嘆させられる。
本書のもう一つのテーマは、学ぶことの意味である。著者は、ドロシー・デッソー、辻悟といった師から、あるいは担当した事例から、さらには事例研究会か
ら、多くのことを学び取り、自分自身で徹底的に咀嚼している。辻悟から教えられたという「絶対と相対」、「感覚と論理」、「普通」といった概念も、単なる
借り物の知識ではなく、実務的英知として血肉化したものとなっていることを本書の至る所で読み取ることができよう。
著者は、今後の調査官へのエールとして本書を書いたという。調査官の在り方が問い直されつつある今日であるからこそ、多くの方に一読を勧めたいと思う次第である。
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