
ナスカ 地上絵の謎
アンソニー・F・アヴェニ 著/増田義郎 監修/武井摩利 訳
地上からの視点に挑む
ペルー南部の海岸に近い砂漠地帯に巨大な絵や線が描かれている。何十キロにもわたって放射線状に広がる直線や台形、渦巻きなどの幾何学的な模様、あ
るいはフットボール場ほどの大きさのクモ、サル、鳥などの動物模様などである。あまりに巨大であるために飛行機の発達以後に再発見され、多くの人々の想像
力をかき立ててきた。
これは、インカ文化に先立ってこの地域に栄えたナスカ文化(紀元前100-紀元800年)の産物だ。このナスカの地上絵は世界八番目の不思議とされ、失われた文明の遺産、あるいは宇宙人の標識などと、さまざまな憶測や仮説が生まれた。
天文学者でもある著者はこれまでの研究史を丹念に追い、その可否を検討しながら自説を展開していく。その過程がとても興味深い。失われた文明や宇宙人を持
ち出す思考は、異質な文化の創造性を否定するという意味において、現代文化とりわけ自民族中心主義的な短絡した思考の反映にすぎない、とする鋭い指摘がさ
れている。
著者はまた、これらの模様を古代の天文学と結び付ける思考も、自分に都合のよい要素だけを選んでいる場合が多いと批判する。あくまで当時のナスカの社会制
度や文化意識から出発しようとし、地上からの視点を重視する。現地に立てば、起伏によって空からでなくても地上絵はよく見えるし、思ったより少ない労働力
で線を描くことも、大規模な設計図がなくても絵を描くことは可能であることもわかった。
著者は動物模様よりは、むしろ地味に見える線の様相に注目し、主として農耕にとって重要な種まきや収穫の時期の太陽の出入りする地平線の方向と関連するという仮説を立てた。動物模様はすべて一筆描きで描かれており、宗教的な儀礼と関連するのではないかとも示唆している。
それにもかかわらず、ナスカの地上絵は多くの疑問をなお残している。豊富な美しい図版が一層、謎解きへの読者の知的好奇心を刺激せずにはおかないだろう。
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