この物語に登場する「ノーチラス号」とは、フランスの小説家ジュール・ヴェルヌが1870 年に発表した冒険小説『海底二万里』に登場する潜水艦の名前です。さらに、主人公のひとり「ネモ船長」も『ノーチラス号の冒険』には登場します。

つまり、『ノーチラス号の冒険』は『海底二万里』に捧げられた、オマージュ( とある過去の作品に深く影響を受けたクリエイターが、そのイメージを損なうことなく新たな世界観を構築すること) 的作品だといえるでしょう。
『海底二万里』が横溝正史の『金田一耕助シリーズ』とすれば、『ノーチラス号の冒険』は、コミック『金田一少年の事件簿』である ―― という感じの関係と思っていただけれ
ば、わかりやすいかと。

もちろん、『ノーチラス号の冒険』は『海底二万里』を読んだことのない人でも楽しめるように書かれていますが、両方をあわせて読むと、いっそう理解が深まることは請けあいです。

『海底二万里』ストーリーダイジェスト

時は19 世紀。世界各地の海で、謎の遭難事件が続発。大きな船が、次々と沈められました。世間は、巨大な怪物の仕業だ、との噂で大さわぎ。フランス人海洋生物学者アロナックス教授と召使いのコンセイユは、アメリカ政府の調査隊に同行することになります。怪
物を発見したものの、調査隊の軍艦は怪物の攻撃を受け、教授とコンセイユ、そして銛(もり)打ちのネッドは、甲板から海に放りだされてしまいました。なぜか三人を救ってくれた巨大な怪物の正体は ―― なんと、海中を自由に航行できる驚異の潜水艦ノーチラス
号でした。ノーチラス号を操るのは、謎めいた風貌の「ネモ船長」……。三人は、はからずもノーチラス号での海底旅行に参加することとなります。美しい深海の生きもの、恐ろしい大ダコとの戦い、海底に沈む都市アトランティスの探検、ネモ船長の秘密 ―― 海の
底を舞台に展開される波瀾万丈、色鮮やかな物語が展開してゆきます。

ちなみに『海底二万里』が書かれた1870 年には、まだまだ実用的な潜水艦は、発明されていませんでした。潜水艦が開発、実用化されだすのは、1900 年代以降の第一次世界大戦下 ―― つまり『ノーチラス号の冒険』の舞台となる時代において、です。

潜水艦のない時代に、想像力だけで、実にリアルに、海の底の風景や、驚異的なメカニックを描きだしたヴェルヌの筆力は、驚くべきものです。

 

「ネモ船長」と「ノーチラス号」

『ノーチラス号の冒険』,『海底二万里』,『神秘の島』の内容にふれています。
まだ読んでない方はご注意を!

『ノーチラス号の冒険』1 巻『忘れられた島』で、主人公マイクの父親であったことが明らかになるネモ船長。『海底二万里』においてネモ船長は、勇気と決断力があり、オリエンタルな風貌の、大変魅力的な男性として描かれています。

さて、『海底二万里』を読んだことがなくても、ネモという名前を耳にしたことのある方は多いことでしょう。それはなぜか。シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、ドラキュラ伯爵……すぐれた小説の魅力的な登場人物は、物語の枠に収まらず、小説はもちろん
のこと、映画、アニメ、はたまた商品名にまでなって、さまざまな場面に姿をあらわすからです。

そういったわけで、我らがネモ船長とノーチラス号は、今なお大人気です。特に日本でなじみ深いのは、NHK アニメ「ふしぎの海のナディア」でしょう。『新世紀エヴァンゲリオン』で有名な庵野秀明監督の出世作で、『海底二万里』をモチーフに、少女の冒険と成長を描いたSF アニメの傑作です。

さらに、『海底二万里』がモチーフとしながらも、なぜかナディアによく似ていると話題となったディズニーアニメ『アトランティス 失われた帝国』にも、ネモ船長は登場します。残念ながら、潜水艦の名前はユリシーズ号ですが。

今日もどこかでノーチラス

1954 年に完成した世界初の原子力潜水艦は「ノーチラス」と名付けられました。アメリカの人気テレビドラマシリーズ『スター・トレック』にも、 U.S.S. ノーチラスという宇宙船が登場。東京のディズニーシーのテーマポート「ミステリアスアイランド」はネモ船長の秘
密基地。もちろん、ノーチラス号もあります。

今もなお、ノーチラス、そしてネモ船長の名は、幼い頃『海底二万里』に心ふるわせたクリエイターの好奇心を、刺激しつづけているのです。

『ノーチラス号の冒険』も、そういった作品のひとつとして、世に送りだされました。航海は、はじまったばかりです。みなさまのご搭乗を、心よりお待ち申し上げています。