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古書往来
64.十三の詩人、清水正一の生涯と仕事を追って

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 今年秋の四天王寺の古本祭りに、例によって初日おそく出かけた。大した収穫もなかったので、そろそろ帰ろうかと思いつつ、それでも未練があって、ふと「あじあ號」さんの棚をのぞくと、棚の隅に数冊、詩の雑誌が並んでいた。そのうちの一冊の背文字に「創刊二十周年記念特集 清水正一」とあるのが目に止った。清水正一(故人)は私がかねてから注目している、大阪、十三にいた詩人、エッセイストだ。中をのぞくと寺島珠雄、涸沢純平、粟(あわ)田茂ら七人が執筆しているし、略年譜があるのもうれしい。雑誌は『po』(75号、1994年春、竹林館)で、「ぽ」の会を主宰する詩人、水口洋治氏が発行人になっている。これを入手できただけでも、その日の収穫があったというものだ。
 清水正一の著作との最初の出会いは、大分以前、『犬は詩人を裏切らない』(大阪、手鞠文庫、1982年)という一風変ったタイトルのエッセイ集を古本屋で見つけたことに始まる。読んでみると、東西にわたる文学書の厖大な読書に基づく博識を駆使した、魅力的な文体の持ち主 ―― 例えば、カタカナとルビの多用もその特徴の一つ ―― と分かり、すぐにおくればせながらファンになった。

inu.jpg 本書ではまず、清水氏が五匹目に飼ったオスの雑種犬ゴロとの10年にわたるつきあいを、朔太郎や安西冬衛、啄木、ツルゲーネフらの犬を唱った詩歌を次々に紹介しつつ、率直に回想した、タイトルになったエッセイにすぐ引き込まれた。同じく雑種犬を15年飼ったことのある私には心に染みいる文章である。犬を題材にした詩は稀少であるとの指摘にも、なるほどと納得。また、伊東静雄、三好達治、安西冬衛、港野喜代子など、詩人の死と別れを描いた文章群も味わい深い。その一篇、「詩人のわかれ」では足立巻一らの『天秤』同人で31歳で夭折した高島健一らを回想しつつ、戦後まもなくの阪神野田にあった国民酒場の紙コップの製造元が、詩人の藤村雅光・青一兄弟の経営、専務が大西鵜之介の会社であったこと、難波にあった大阪の文学者の溜り場、茶房「創元」にもファンで出入りしたことが出てくる。そこに「お露さんとよぶ品のいい小母さんと、少女時代の竹久千恵子(筆者註・戦前、東宝で活躍した色気のある女優)を偲ばせる女店員が一人」いたという。後者の女性は新証言であろう。
 本書は、清水氏の詩集を二冊出した版元、編集工房ノアのノア叢書あたりでぜひ復刊してほしい本だ。にもかかわらず、私の『関西古本探検』では、その中心をなす「オーサカ詩人伝」 ―― 竹中郁、杉山平一、小野十三郎、伊東静雄、安西冬衛ら敬愛する詩人たちを取り上げ、自分史と十三や大阪の心象風景とを絡ませながら論じたユニークなエッセイ群 ―― も紹介せず、戦前の大阪、戒橋にあった十二段屋書房の戦後の消息を伝えた氏の文章のみ引用したに留まっている。今回、やっと清水氏を私なりに本格的に紹介するという宿題を果たせそうである。
simizu.jpg その後、しばらくして、たしか日本橋の古本屋の棚の上の方に『清水正一詩集1946~1979』(編集工房ノア、1979年)と『続・清水正一詩集』(同、1985年)をセットで見つけ、喜んで買っておいたのだ。いずれもカバーが少々汚れた、いかにも古本らしい本で、粟津謙太郎の魚のエッチング画の装幀も味わい深いものだったが、二冊で千円とは掘り出し物だった。後に知ったことだが、清水氏が私たちに遺してくれた著作はこの三冊切りなのである。今回、この原稿を書くために、第一詩集の方はすぐ取り出せたが、『続・・』の方が部屋をいくら探しても見つからない。ひょっとして他の本に紛れて手離してしまったのだろうか。そうとすれば、とんでもないことをしでかしたものだ。(読者にも面目ないなぁ)再読しようと、千里図書館で検索してもらったところ、大阪の図書館はおろか、国会図書館にも入ってないという。 ああ!


torigo.jpg それからも清水氏のことは気にかかり、何かの古本展の折に見つけたのが田辺明雄氏らの『鳥語』(第10号、奈良、鳥語社、1980年6月)という文学同人誌で、これは同誌掲載の三浦玲子さんによれば、清水氏67歳の折の第一詩集の出版記念会の後で、同誌の同人たちに敬愛されている氏の小特集が組まれたものである。
 さて、今回手に入れた『po』を見ると、清水氏の死後、同人であった『解氷期』18号に追悼集が組まれたし、同誌の同人、故・寺島珠雄のメモ風の一文から、『黄色い潜水艦』3号(奈良、イエローサブマリンクラブ、1985年5月)にも宮川芙美子の「メザシのオッチャン」なる出色のエッセイがあること、また『犬が・・・(以下省略)』を刊行した手鞠文庫の発行人、喜尚晃子さんのエッセイにも同文庫発行の『てまり』7号で追悼特集をしたとあったので、急いで探索を始めた。まず、千里図書館で収蔵館を検索してもらうと、『解氷期』は10号までしかなく残念だったが、あとの二冊は大阪市立中央図書館に禁帯出ながらあるという。私はヒマを見つけて(ほんとか?)西長堀まで出かけ、早速雑誌を出してもらい、該当箇所をコピーしてきた。『てまり』(全12号)は開架の棚にあったので、他の号も閲覧することができた。バックナンバーを見ると、清水氏の未読のエッセイや足立巻一、山田稔のエッセイなども載っている。この『てまり』も今回初めて手にしたが、関西の錚々たる文学者や詩人が執筆しており、もっと見直されていい文芸雑誌だと思う。 seikoudoku.jpgそれともう一冊、神戸、サンパルの万陽書房に久しぶりに寄った際、本屋では見かけなかった『犬塚昭夫エッセイ集2 晴耕雨読』(堺市、異郷社、2000年) ―― 印刷は鳥語社書籍印刷となっているので、前述の鳥語社と関係があるようだ ―― をなにげなくのぞくと、犬塚氏が好きな様々な詩人についてのエッセイを一冊にまとめたもので、その中に清水正一も割に頁をとって取り上げていたので、これは!と思い、買っておいた。(犬塚氏は他にも断腸文庫として14冊以上の詩集を異郷社から出している。)
 これらの追悼集を集中して読むと、清水氏の人柄や知られざる人間関係などが改めてよみがえってきて、むろん交流のなかった私にも、より身近な存在として迫ってきたのである。限られた資料からだが、ささやかながら清水氏の生涯と仕事をやや詳しくまとめてみたい。(但し、参照の誌名はいちいちあげない。)
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