文・栗本智代、写真・小谷 光

【著者プロフィール】
栗本智代(くりもと・ともよ)
1965年吹田市生まれ。大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所主席研究員。奈良女子大学卒業後、大阪ガスに入社。1991年より現職。大阪の活性化の一環で、都市の個性や魅力を、歴史や文化的側面から探求。「なにわの語り部」公演活動も展開する。著書『大阪まちブランド探訪』(創元社)、『大阪水の都に浮かぶ劇場』(KBI出版)など。
創元社
第1回 戻る

東横堀川界隈

大阪最古の城下町で、新旧の本物に出会う

それぞれの橋を味わいながら

 平野橋、大手橋。次々と橋をくぐる。橋の裏面のデザインはすべて違って面白い。
「気付かれましたか? 石橋、鉄橋、石橋、鉄橋と交互になっていて、変化をもたそうと、大阪市が考案したそうです。あっ、見えますでしょうか? 進行方向右手に、1箇所だけ、石の護岸が今も残っています。自然の草が生えていて、昭和の初期頃のものかもしれません」。

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 重厚な雰囲気の橋が近づいてきた。「本町橋」である。1913年(大正2)に完成。市内の現役で一番古い橋だ。このビスの打ち方、今の技術ではもうできないという。
 このあたりから、農人橋まで、川筋が左に曲線S字カーブを描き「本町のまがり」と名づけられている。なぜ、ここだけ曲がっているか? その理由に3つの説があるという。1、浄国寺があり、寺地を避けたため。2、大阪城外堀として敵の侵入を困難にするため。3、昔から川筋が曲がっていたため。杉本さんは、その真相を知るため、大阪歴史博物館の学芸員に調べてもらったが、「結局わからなかったんです」とため息をつく。曲がり角では水流が渦を巻いて水難事故が多いため、地元の人が"曲がり淵地蔵尊"を祀っている。
 だんだん高速道路が川筋すべてに覆いかぶさる形になっていく。この天井や柱に照明を施し、パルテノン神殿風にしたり、伏見稲荷のように柱を全部赤く見せたりと、遊び心満載の提案が幾度もなされてきた。2009年は、高速道路を星空に見立て、大阪城や通天閣を星座として映し出したライトアップが本町橋北側に出現した。アートの実験劇場として、楽しい試みを是非続けてほしい。
 船は農人橋まで来てUターン。2009年7月にオープンした、東岸にある本町橋の仮設の船着場まで戻る。タイミングよく、てきぱきと解説する杉本さんに感心していると、「まち歩きは立ち止まれますが、クルーズでは、船がどんどん進みますから、風景にあわせて次々とガイドをしないといけない。コツが要るんです」と真顔で答えてくれた。

古い建築物が家具のショールームに

 ここから、まち歩きである。
 本町橋の東詰、すぐ前にそびえるのはホテル「シティプラザ大阪」。旧大阪国際ホテルの跡地に、2006年にオープンした。1階の「カフェパオ」のテラスには、天然温泉の足湯「泉」が開放されている。昔は、西町奉行所の土地であり、今は同敷地内に、大阪商工会議所、マイドームおおさかも建つ。
 川沿いに少し南下すると、通りから見ると2階建て、川からは3階建ての古い建物。1階の小さな空間は小さなワークショップができるフリースペースになっている。
「あっ、きらきらタイムだ」と杉本さん。川面に太陽光が反射して、壁がきらきら光る。ゆらゆらとした水の動きを映してなんとも綺麗で楽しい。「なかなか、出会えないんですよね」と、杉本さんは嬉々としてデジカメで動画撮影を始めた。
 2階は、「うたたね」という家具・小物屋さんである。主に木材を素材とした、机、椅子、小皿やスプーン、一輪ざしやアクセサリーなど、一点一点手作り感あふれる作品が並ぶ。何ともほっとさせられる店だ。ショールームの奥には川に面した作業場がある。インテリアの専門誌にも掲載されており、遠方からわざわざ足を運ぶお客様も少なくない。ほとんどオーダーメイドらしい。杉本さんもここがお気に入りで、「私も、お膳にもなるミニサイズの机を、イメージや寸法など伝えて作ってもらったんですよ」。
 代表の山極博史(やまぎわひろふみ)さんは、「"うたたね"という店名は、もの作りのスピード感を表しており、のんびり、ゆっくり、うたたねできるほど落ち着ける雰囲気を大切にしたい、という意味がこもっています。木の味わいを損なわないよう、仕上げはニスではなくオイルフィニッシュにしています」と、やはりのんびり話す。1999年に立ち上げ、2002年にここに移転。「交通の便が良く、ゆっくり家具を見てもらえるスペースを探しており、この建物に出会った。もう壊されるというので、オーナーに掛け合ったんです。都心ながら、ゴチャゴチャしていないまちの雰囲気も気に入りました」。
 商品のネーミングが楽しい。例えば「nene」という椅子は、殿様の膝置きのような形で、秀吉の妻の名前をとったという。ハガキ挿しの置物は「トビー」。おちゃめな感じが出ている。まるで隠れ家のような小さなショールームは、このまちにとてもよく似合っている。

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